1965年生




 5年振りに盌をご覧いただく。前回の頒布会の打ち合わせに伺った折に、なにげに陽だまりの広縁に置かれてあった色絵白瓷の盌。ふっと目が留まり尋ねてみた「あれは?」。「あぁ、あれですか」と微笑みながら詳細は返ってこず、「お店で使ってもらえますか?」との一言。前回頒布会の搬入時に数点持ち帰って暑い暑い7月の頒布会でお客様に麦茶を振舞った。すこぶる評判が良く‥‥だが、販売の約束も何もせずに持ち帰ったものを、店主の勝手で嫁にだす訳にもいかず。
 数日後、終わったばかりの前会報告を兼ねて金重邸のいつもの間に再び伺った。あの盌の何点かが、また広縁で心地よくこちらの様子を伺うように見つめてくれていた。思い切って盌の評判と感想を、そして皆様の思いを込めて語ってみた。微笑みを返しながら、楽しそうに聴く巌さんの表情からは心身の不調は感じられない。
 少しお待ちを、と奥の間に消える彼のタイミングを見計らったかのように、盌達が私を手招きしてくれた。彼女らに話しかけてみた「嫁にもらいたいと言う方々がいるのよね」と。奥の間から戻ってきた彼の手におさまる盌に注がれていたのは、常温の水。真夏の日差しが眩しい日中にも関わらず、その水は清々しくスゥーと五臓六腑に沁み渡った。「あぁ湯盌だ!」直感的にその言葉が口をついて出ていた。あとは一気呵成に話は進み、伊部の盌も含めた六十の湯盌を皆様にご覧いただく頒布会を開催する運びとなった。
 それにしても不思議な「水」だったなぁ。きっと巌さんの健康を支える「水」に違いないと想いながら家路についた。今年最後に皆様をお迎えするのが、「湯盌」というのは実に金重巌らしく、実に壺屋らしい。
 皆様にとって、今年は如何様な年だったでしょうか、くる年が良き年にと心から願いながら36回目の頒布会がもうすぐ始まります。
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